秀808の平凡日誌

第麓話 撃退



「…では、いかせてもらう。」

 ランディエフが『アンドゥリル』を片手に、スウォームに正面から突っ込む。

「ハッ!愚カナ!」

 スウォームが息を吸い込みながら首を持ち上げ、ブレスを吐き出す。

 ブレスが放たれると同時に、ランディエフはジャンプし、その攻撃を避ける。

 そして、スウォームをそのまま飛び越し、背後に着地する。

 着地したと同時に振り返り、スウォームの左翼に『サザンクロス』を食らわせた。

 翼膜の薄い部分が斬れ、切れた部分から血が噴き出す!

「小癪ナ真似ヲ!」

 スウォームが振り返って攻撃しようとするが、自身の翼に邪魔され、ランディエフの姿を捉えられない。

 ランディエフも、翼の死角に隠れるように移動し、的確に一撃を加えていく。

 龍人族に共通する弱点、それは背後に回られると、一方的に攻撃されてしまうということだった。

 だが、決定的な一撃を与えられないというのも事実。決定打を与えるには、最も鱗や甲殻の薄い腹を攻撃するしかない。

「(…しかたない、相打ち覚悟で腹を狙うか…!)」

 ランディエフが大きくバックステップして距離をとり、その間にスウォームが方向転換を済ませる。

「…ハァァァ!!」

 『アンドゥリル』を構え、腹に突き刺そうと突進する!

「バカメ!力デハ俺ノ方ガ遥カニ上ダ!叩キ潰シテヤロウ!」

 突撃してくるランディエフを手刀で串刺しにしようと、右腕を突き出し、足を踏み出そうとするスウォーム。

 だが、足を踏み出そうとした瞬間、地面が命を持ったように動き出し、スウォームの足を包み込み、移動を不可能にする。

 ファントムの放った『ロックバウンティング』である。

「ナニ!?」

 突き出した手刀はランディエフの頬を掠ったものの、直撃することはなかった。

 そして、『アンドゥリル』の刀身が、スウォームの腹を貫き、貫いた刀身から、さきほどの緑色の炎が溢れ出す!

「グオオオオオオオオオオ!!?」

 苦しみながらも、刺さりきっていない『アンドゥリル』の刀身をつかみ、ランディエフごと遠くに投げ飛ばした。

 スウォームの腹部からは、黒い血がドクドクとあふれ出ている。

 確実に、大ダメージは与えることができたようだ。

「オノレ…コノ人間風情ガ…」

 口から黒炎を絶え間なく洩らしながら、言い放つ。

「ヨクモコノ我ニ傷ヲツケテクレタナ!今スグ食イ殺シテヤル!!!」

 スウォームの目が怒りの炎に燃え、大地を震わせるかと思われるほどの大きさの咆哮が鳴り響く。

 それにあわせ、ランディエフが剣を構え、ファントムは様子を見ながらチャージングを始める。

 だが、スウォームが今にも襲い掛かろうとした瞬間、あたりから声が聞こえてくる。

(退ケ!スウォームヨ!)

「!」

 ファントムが、その声の主を探そうとあたりを見回すが、あたりには自分達以外影も見当たらない。

「シカシ我主、ルーツ様…」

(…貴様ノ兄、ゼグラムノ復活ノ儀式ヲ行ウ、今スグニ戻ッテクルノダ)

「…承…知…」

 スウォームが落ち着いた様子で、翼を羽ばたかせ、宙に舞った。

 上昇しながら、スウォームは言う。

「…ランディエフト言ッタナ!次ハコウハイカンゾ!覚悟シテオクコトダ!」

「…いいだろう、楽しみにしておく」

 


  同時刻 名もない崩れた塔 頂上部

「サア、スウォームノ兄、ゼグラムヨ、マタ蘇リ、破壊ノ力ヲ振リマクノダ!!」

 真っ白な体の龍…ルーツがオブジェの様な大きな像に声を張り上げる。

「…我等ガ主、ルーツ様…。」

 小さく声を出し、像が崩れた赤い体を翼を広げる。

「ゼグラムヨ、マタ世ハ我等ノ物ダ。」

 紅龍の大きく吠える声が木霊し、大地を揺らがした。


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